趣味とバイトと白雪くん

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 握手会の参加者の列が数人になった頃、僕はそこへ戻った。  パーティーグッズが売っているお店で買った、黒のロングヘアのウィッグ。店員さんに選んでもらった、紺色の花柄のワンピース。それらを身に付けてメイクをし、僕は『白雪』になった。  会うべきじゃないって思ったけど、もうこんな機会一生無いかもしれない。一度だけで良いから、雑誌でも映像でもない本物の赤羽様をこの目に映したいと思ってしまった。  女装姿だと、男とバレないかのドキドキ感と緊張感はあったけど、ちゃんと列の最後尾に並ぶ事が出来た。  僕は白雪、周りは女装、周りは女装……。  緊張しないように落ち着こうと、まるで呪文のように失礼な事を心の中でずっと唱えていた。  僕の番が回ってきて係の人に入場券を渡すとテントの中に招かれた。そこには、夢にまで見た人が立っていた。 「こんにちは、来てくれてありがとう」 「っー!」  ほ、本物の赤羽汰斗!!  茶髪の髪に整った顔立ち、長身で大人っぽい雰囲気だ。学校では成績優秀、スポーツ万能で芸能科の中でも人気が高いナンバー1アイドル。  僕が圧倒されて動けずに居ると、彼から近寄ってくれて微笑みながら僕の手を握ってくれた。 「っ……!?」 「会えて嬉しいよ」  さっきまでは大丈夫だったのに。本人を目の前にするととてつもないオーラを肌に感じて、落ち着く事が全然出来そうにない。  心臓が飛び出しそうな中はっとして、サインしてもらう写真集と元々渡そうとしていた手紙を差し出した。緊張して、応援してる想いをきちんと伝えられそうにないと思ったからだ。
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