私の居場所

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言葉は分からないが、『お前、食べたい』と言ってるに違いない。私は考え込んだ。しかしその瞬間、私は強い衝撃と共に真ん前に白い牙が氷を突き刺すのが見えた。そして滑らかに後ろに滑りながら今のやり取りの全体像が見えた。私の背中を預けていたそのセイウチは後ろに半回転するなり、私を後ろへと滑らせてもう一匹のセイウチの牙から遠ざけたのである。しかし現象は分かっても彼の行なった行為の理由は私には分からなかった。ただ助かったという事実だけは幼い私にも分かる。 セイウチから遠ざけられた私はおぼつかない足で冷たい透明の石の上を歩いた。冷えた足と共に冷えていく背中。ほんのちょっと歩くと、氷は途切れ青いカーペットが姿を現した。私はそれが海だということは母親役から教えられている。居心地良く危険な場所。それを包み込むかのような壮大な広さ。それがこの海である。たまに変な透明な物が流れてくることもある。私は海になど入ったことはない。泳ぐことも知らない。だから私はこの氷の縁を沿うように歩き回った。一周した頃にはセイウチたちはその場にはいなかった。赤い血と繋がっていない氷の表面が私の目に広がっていた。私はその氷から飛び降りる勇気はなかった。時間が経つによって明るい日差しは暗闇となり、太陽が月とバトンタッチして星空のカーテンが私の上を覆う。そしていつの間にか日が経った。 「フンガフンガ」 何者かの鼻息で目が覚めた。そこには白いふわふわとした毛と黒い鼻、そして大きな体に私を食い殺すと言わんばかりの目玉。奴はシロクマだ。 「フン……フンガ」     
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