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父親は私の頭を撫でた。
「あなたはあの時の……ありがとね」
「アウー!!」
セイウチはそう大きく叫んでは海に泳ぎ去った。言葉が分からないのに、お互いの気持ちは伝わていた。母さんに何があったのだろうか。思わず聞いてみた。
「ねぇ、母さん。あのセイウチって会ったことあるの?」
「えぇ、あの子が小さい頃にね。私もまだあなたぐらいだった頃に……そう、あの子の尾びれ、ちょっと歯型が付いてたでしょ?」
私はあの時に飛ばされた際に見えた彼の尾びれを見て古傷の歯型が見えたのを思い出した。
「うん、見えた」
「あの傷はシャチの物なの。そのシャチに噛まれてたあの子を私のくちばしがシャチの目で突っついてやったわ。でもなかなか離してくれなかったわね。だから両目潰してあげたわ。そしたら彼の尾びれを離すなり、逃げ去って行ったわ」
あのセイウチはそんな母親の感謝に私を助けたのだろうか。そんなことは私には分からない。でもセイウチの背中のぬくもりは母親のぬくもりに変わらないことは私にも分かった。海に向けて『ありがとう』と思って一礼した。どこからかまたセイウチの鳴き声が聞こえそうだった。
「ねぇ、またぬくもり感じていい?」
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