1人が本棚に入れています
本棚に追加
「行ってきます、みーちゃん留守番よろしく」
みーちゃん、ね。私はどこまで本気で植物に話しかけているのかな。
赤い傘をさしながら、小雨の中を歩いて行くと制服の集団に出会う。
目指していたのはアパートからほど近い中学校。
楽しそうな顔をして友達と登校する女子。
わざと傘をささずにふざけながら走って行く男子。
見たことがない訳じゃない。知らないわけじゃない。ただ、縁遠いだけ。
私が中学の時は、と校門の前で立ち止まりどうでもいい記憶だけど引き出しから抜こうをした。
「ねえ、そこのあなた」
「・・・」
「あなたですよ。赤い傘をさしている」
ハッとして声のする方へ顔を向ける。私を呼んでいたのはここの教師だろう。
でも、教師の割には歳が・・?
「この学校になにか御用ですか?それとも・・」
マズい。どう考えても私は不審者以外の何者でもない。でもいったいどこからどう説明すべきか・・。
「青葉さんですよね?雨の中ありがとうございます」
「鈴木先生、こちらの女性をご存じで?」
1人でパニックになっている間に救いともいえる男性教師―鈴木先生―が加わってくれた。
しかしそれでも女性教師は見知らぬ相手だしとにかく謝る、それしかない。
「不審者と思わせてしまいすみません!私、青葉カナと言って」
「青葉カナさん・・もしかして今日からお話をしてくれる青葉さんかしら?」
「はい、そうです」
「変な勘違いしてごめんなさい。私は教頭の飯田です。さあさあ中へどうぞ」
職員玄関でスリッパに履き替えて校内へ入る。
鈴木先生と飯田教頭とすれ違う生徒たちは元気な挨拶をして、私を見るとなぜだか同じように笑顔で挨拶をしてくれた。
その挨拶にぎこちない笑顔で返すことしかできなかった。
やっぱり、勢いで応募したのが間違いだったかな。
しかも採用されるはずないと思っての応募だったし。
最初のコメントを投稿しよう!