序章

1/1
前へ
/112ページ
次へ

序章

不夜城、歌舞伎町。 ベットボードの上に数枚の札、気だるい体が薄闇に広がり、煌々としたネオンが輝き始め、鳶色の目をした真純を眠りから覚醒させ、瞳の中をキラキラと投影する。 「リサちゃん、あんだけヤったのに出勤してるし! 」 真純はサラサラの地毛の茶髪に指を通し、頭を掻きむしりながらそう言った。 恐らく女の体力に負けた己が少し悔しかったのだろう。 カチッカチッ…と真純が聞きたくない時を刻む音がクイーンサイズのベッドが入る程の広い部屋に響いた。真純は聞いたら負けだと、ベットの上で耳に枕を当てた。 そうしているうちに、太陽の光は徐々に傾き満月が輝き始めた。 真純が心地よい寝心地にうとうとし始めたその時だった。 バイブ音がブブッブブッ…と鳴り響いた。 真純は咄嗟にその振動に反応し、その振動がどこにあるか、パンツ一枚で部屋中を探し始めたが、振動だけではどこにあるか分からない。 せめて、マナーモードを外すべきだったかと真純は思ったが、後の祭りであった。 延々となり続けるバイブ音に真純の頭は恐慌状態になった。 「あったーーー!! 」 ベッド下から自らのスマホを見つけ、真純は喜んだ。そして、次の瞬間に画面に映った名前を見て、顔を青くした。固まる真純に鳴り続けるスマホであったが、とうとう真純は受信ボタンを押した。 『……真純、てめぇ。俺を待たせるなんて偉くなったもんだなぁ。お前今何時だと思ってる? 』 「お、オーナー……」 『とりあえず真純、俺の堪忍袋の緒が切れないうちに出勤しろよ。じゃあな』 プツリと切られた通話を他所に、真純はスマホの時計を見た。 時間は出勤時間の二時間を超えていた。出勤時のオーナーの反応を予想してしまい、震え上がった真純は置いてあるはずもない着替えを探すことなく、ここからすぐ側のの自宅に向かうことにした。 昨日袖を通した服に着替え終えると、そういえばベッドボードに札以外に何かあったような気がしたため、ベッドボードの前に立った。 そこには五枚の一万円札とメモ書きがあった。 『真純ちゃんへ 昨日は楽しかったから、お小遣い置いとくね?部屋はオートロックだから自由に出てね!』 真純はリサ直筆であろうメモ書きに、脱力しつつも、デニムのポケットに五万円を捩じ込み、リサの部屋を出ていった。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加