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序章
不夜城、歌舞伎町。
ベットボードの上に数枚の札、気だるい体が薄闇に広がり、煌々としたネオンが輝き始め、鳶色の目をした真純を眠りから覚醒させ、瞳の中をキラキラと投影する。
「リサちゃん、あんだけヤったのに出勤してるし! 」
真純はサラサラの地毛の茶髪に指を通し、頭を掻きむしりながらそう言った。
恐らく女の体力に負けた己が少し悔しかったのだろう。
カチッカチッ…と真純が聞きたくない時を刻む音がクイーンサイズのベッドが入る程の広い部屋に響いた。真純は聞いたら負けだと、ベットの上で耳に枕を当てた。
そうしているうちに、太陽の光は徐々に傾き満月が輝き始めた。
真純が心地よい寝心地にうとうとし始めたその時だった。
バイブ音がブブッブブッ…と鳴り響いた。
真純は咄嗟にその振動に反応し、その振動がどこにあるか、パンツ一枚で部屋中を探し始めたが、振動だけではどこにあるか分からない。
せめて、マナーモードを外すべきだったかと真純は思ったが、後の祭りであった。
延々となり続けるバイブ音に真純の頭は恐慌状態になった。
「あったーーー!! 」
ベッド下から自らのスマホを見つけ、真純は喜んだ。そして、次の瞬間に画面に映った名前を見て、顔を青くした。固まる真純に鳴り続けるスマホであったが、とうとう真純は受信ボタンを押した。
『……真純、てめぇ。俺を待たせるなんて偉くなったもんだなぁ。お前今何時だと思ってる? 』
「お、オーナー……」
『とりあえず真純、俺の堪忍袋の緒が切れないうちに出勤しろよ。じゃあな』
プツリと切られた通話を他所に、真純はスマホの時計を見た。
時間は出勤時間の二時間を超えていた。出勤時のオーナーの反応を予想してしまい、震え上がった真純は置いてあるはずもない着替えを探すことなく、ここからすぐ側のの自宅に向かうことにした。
昨日袖を通した服に着替え終えると、そういえばベッドボードに札以外に何かあったような気がしたため、ベッドボードの前に立った。
そこには五枚の一万円札とメモ書きがあった。
『真純ちゃんへ
昨日は楽しかったから、お小遣い置いとくね?部屋はオートロックだから自由に出てね!』
真純はリサ直筆であろうメモ書きに、脱力しつつも、デニムのポケットに五万円を捩じ込み、リサの部屋を出ていった。
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