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「…そう、だよね。あのことも、忘れちゃったんだね。」 震える声で愛理が言う。黒い瞳は明らかに怯えていた。まずい。このままでは泣いてしまうのではないか。 「ごめん、どうしても言いにくいなら、言わなくていいんだ。」 「嫌!そうしたらあの時アキト君がしてくれたことがなくなっちゃうもん。ちゃんと説明するのは私の義務だよ! …でも、ゆっくりでも怒らないでくれるかな?」 こんなに華奢で壊れてしまいそうな子なのに、とても強い目をしていて驚いた。彼女は震えながらも私の義務だという言葉に力を込め、アキの目をしっかり見据えてきた。 「…勿論だよ。ありがとう。」 目の前の食事には手をつけないまま、自分の飲み物を景気付けのようにぐっと飲み干すと、手をぎゅっと握り口を開いた。 「…私たちは、異母兄弟なの。」 「えっ…?」 一言目から衝撃だ。昨日のように忘れてしまうと困るから、携帯のメモに細かく記録を残していく。 「私たちの父は、ロクでもない人で、婚姻関係にあるアキトくんの家の奥さんは放置状態、愛人である私の母は… 毎日、働いたお金を取られて、泣いていたわ… そのお金でお酒を飲んで、満足に飲めないと今度は私たちを殴り出すの… それで私、大学生になったある日、その人に…」 そこで愛理は言葉を切ると、震える声を断ち切るように深く息を吸い込んだ。 「毎日毎日強姦されたの。1ヶ月くらい経つと今度はへんな人たちに渡されて、 …そこにアキトくんもいたのよ。」 思考が追いつかない。意味がわからなかった。彼女は俺と同じ父を持ち、彼に犯され、回されたその先に俺がいた… 自分に本当にそんな過去があったのだろうか。 わからない。でも、彼女の言うことは当たっている気がした。 何かがすとんと落ちた気がするから。
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