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どうしてか、と聞かれたら答えは一つだろう。でも、湊が聞いているのはそういうことではない気がした。だからアキは言葉に詰まってしまう。
「ごめんなさい… 」
とりあえず謝ると、湊は深くため息をついた。
「あれ、湊さん?」
振り返ると愛理がいて、驚いたように湊を見ている。
「愛理… 。アキになにか、話したか…?」
湊の声が冷たく響く。愛理はそれに驚いてびくっとしたが、ぎゅっと唇を噛んでから口を開いた。
「うん…。アキトくん、事件について知りたいって言ってたから。」
「そうか… 。アキ、帰るぞ。愛理、俺が払うから、伝票は渡してくれ。」
アキ…。湊はアキのことをアキ、と呼んだ。空耳だろうと思ったが、二回もそう言ったのだから、きっと聞き違いではないのだろう。
愛理に無言で伝票を差し出され、湊はそれを受け取ると即座に会計を済ませてアキの手を引いて外に出た。
「どうして… 」
湊の方を見る。彼の灰色の瞳が、悲しげに揺らいだ。
「アキ、話があるんだ。」
またアキと呼ばれた。優しさと憂いを帯びた、そんな声で。
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