3

3/10
前へ
/34ページ
次へ
「え…?」 驚く母を無視し、アキトは続ける。 「あの山道のガードレール、一箇所だけもろくなってるんだ。今度3人でドライブに行って、父さんを運転手にして無理やりそこに突っ込むようにしむけよう。雪で滑りやすくなってるから、そうやって言い訳すればいい。 …母さんの体は、俺が守るから。」 「アキトは…?」 さらにギョッとした目で母がこちらを見る。しかし、父はもうどうしようもない。殺しでもしなければ、きっと母が殺される。 「俺は、もういいんだ。幸せをゆっくり味わったから。こんな穢れた体に湊さんのあふれんばかりの愛を受けるのは、 …正直、申し訳なくてさ。」 そう。もう湊は知っている。アキトが本番こそ湊と初めてだったとはいえ、幾人もの男に手を口を身体を汚されてきたこと。 そして、愛理を救ったことで、アキトは湊以外の雄をその身の1番深くまで受け入れたのだ。 それも、いくつも。 それなのに、湊はその後も変わらず優しく自分を抱くのだ。愛おしそうに、溢れそうなほどのたっぷりの熱とともに。 そして、その夜、アキトは計画通り母と車に乗り込み、父が壊れたガードレールに突っ込むようにと仕向けたのだ。 しかし、一つだけ誤算があった。 母は、アキトが包み込み守るはずだった。それなのに、アキトは逆に母に包み込まれたのだ。 落下の直前、母はアキトに優しく笑いかけた。 『ごめんね、愛しているわ。』 そう、ささやきかけながら。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

233人が本棚に入れています
本棚に追加