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「え…?」
驚く母を無視し、アキトは続ける。
「あの山道のガードレール、一箇所だけもろくなってるんだ。今度3人でドライブに行って、父さんを運転手にして無理やりそこに突っ込むようにしむけよう。雪で滑りやすくなってるから、そうやって言い訳すればいい。
…母さんの体は、俺が守るから。」
「アキトは…?」
さらにギョッとした目で母がこちらを見る。しかし、父はもうどうしようもない。殺しでもしなければ、きっと母が殺される。
「俺は、もういいんだ。幸せをゆっくり味わったから。こんな穢れた体に湊さんのあふれんばかりの愛を受けるのは、
…正直、申し訳なくてさ。」
そう。もう湊は知っている。アキトが本番こそ湊と初めてだったとはいえ、幾人もの男に手を口を身体を汚されてきたこと。
そして、愛理を救ったことで、アキトは湊以外の雄をその身の1番深くまで受け入れたのだ。
それも、いくつも。
それなのに、湊はその後も変わらず優しく自分を抱くのだ。愛おしそうに、溢れそうなほどのたっぷりの熱とともに。
そして、その夜、アキトは計画通り母と車に乗り込み、父が壊れたガードレールに突っ込むようにと仕向けたのだ。
しかし、一つだけ誤算があった。
母は、アキトが包み込み守るはずだった。それなのに、アキトは逆に母に包み込まれたのだ。
落下の直前、母はアキトに優しく笑いかけた。
『ごめんね、愛しているわ。』
そう、ささやきかけながら。
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