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涙に濡れたそのほおがぴくりと動き、長い睫毛に包まれた目がぱちりと開いた。
「悪い、起こし…
アキト?」
何か大きな変化があったわけではない。しかし、その声音、仕草に、湊は一瞬で彼をアキトだと認識した。
ちょっとした表情の作りや、喋り方がアキとは全くちがうのだ。ずっと愛してきたから、湊にはわかる。
「さーすが。…ねえ、湊さん?話があるんだ。聞いてくれる?」
「…それは、今聞かないといけないことか?」
湊がそう聞き返したのには、理由があった。これを湊に話し終えたら、なんとなく、アキトがいなくなってしまう気がしたのだ。
「うん。だめ。だけどその前に…
アキに負担をかけちゃうからキスくらいしかできないけど、
…湊さん、えっちしよ。」
どうしてだろうか。湊はその言葉に、逆らうことができなかった。それはアキトが、縋るように湊を見つめてきたからである。
そして、その願いの前には、『最後に』という形容詞が付いている、そんな気がした。
キスだけなのに、セックスに入るのだろうか。そんな疑問も、今の2人にはあまり関係のないことで。
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