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「湊さんっ!」
今度は耳元で叫ぶと、形の良い白い瞼から伸びた長い睫毛が僅かに震える。しかしその震えはすぐに止まる。目を開けるのを諦めたようだった。
「朝だ…んっ… 」
朝だよと言おうとしたアキの唇を湊のそれが塞ぐ。
目を開けないで随分と器用なことで。心の中で軽く悪態を吐く。
そのまま右手が伸びてきて、あっという間にアキの体はすっぽり湊に包まれてしまった。…動けない。
「今日は1時から打ち合わせでしょ?今10時。」
「…あと…、3時間もある… 」
脅迫をつぶやくが、無効のようだ。アキトの記憶の中には湊が寝起きだけやけに甘えただということが刻まれていたが、アキはそれを目の当たりにして唖然としていた。
…クールキャラで売ってるイケメン小説家様の名が台無しだ…
そのままぎゅうぎゅうとアキを抱きしめ、背中に顔を擦り付けてくる。
当たり前だが、溺愛するアキトに対して、湊は他の誰に対してより素直で優しく、魅力的だ。
素直に受け入れたらどれだけ幸せだろう。それは過去の自分に向けられているものだから、と思うと、どうしてもどこかが苦しくなるのだった。
気がすむまで約30分アキにスキンシップを繰り返したのち、湊は起き出すと朝食の用意を始める。
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