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今アキが使っているこの部屋は、アキトも使っていた部屋だ。今まで一度も興味を示さなかった棚や机の中の引き出しを全て開け、丹念に何か手がかりはないか探していく。 結局、大学の講義のノートや資料があるだけだった。アキもよくそれを見返している。 ふと、昨日湊が触った部分がどうなっているのか気になった。一生懸命後ろに手を伸ばしながら、うなじの左のあたりをいくつも撮影する。 撮影した写真はほとんどがぶれているか位置を外しているかで、30枚撮影したうちのちゃんとその辺りが写っていたのはたったの二枚だった。 真っ赤に傷ついているわけではないし、青く鬱血しているわけでもない。たただ、目を凝らしてみると、白い筋が一本、浮き出ている。 その部分を拡大すると、明らかに意図的につけられた、4センチ四方程度の十字の切り傷の跡があった。 それを見ると、胸が苦しくなる。湊に触られたときみたいに過呼吸になるほどでないけれど、鼓動はどくどくと波打って止まらない。 なんで… 自分はこの傷がついた経緯さえも知らないのに、どうして身体はこの傷にここまで反応するのだろう。 もっとたくさん、手がかりが必要だ。何か… 視界の片隅に、先程穴が空くほど見つめた(おそらく)母親の手帳がある。 そこのプロフィール欄を見ると、住所と、職場の情報が書いてあった。 住所はここからそこまで遠くない。調べると4つ先の駅が最寄りだった。
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