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「はぁ? 親に心配かけさせてんのはお前だろうが。知らねぇとか、ガキみたいなこと言ってんな」
心配してくれる親がいて、それを当然だなんて思ってるから、そんなことが言えるんだ。
無性に腹が立って、思わずそう言い返したら。
「っ!」
ゴス、と鈍い音が耳の横で響く。
壁に打ち付けられた握り拳の音にも視線は逸らさず、苛立ちの滲む聖司の顔を睨み上げる。
今は、この身長差さえ腹立たしい。
「何、それで脅してるつもりか? いい加減にしろよ、お前。女だか何だか知らないけど、優美さんに心配ばっかり」
「また母さんかよ……」
「は?」
ゆらりと、聖司の体が離れる。
詰められていた分の距離が開いて、あっという間にそこを空気が抜けていく。
「……いいよ。女遊び、やめてやるよ」
のっそり顔を上げた聖司は、無表情に俺を見据える。
その投げやりな言い方も、感情のない声も気味が悪くて、思わず足を引いたら、簡単に壁に当たった。
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