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五月 五日の おじいちゃん の庭
「おばあちゃん・おはよう」
玄関からでなく・玄関から右に入っちゃって庭から・縁側に座って待つ
5月・明るい光と新緑と半年前に張り替えた畳の匂いが混ざって鼻をくすぐる
少し長くなった髪が風で揺れる
庭は小さいんだけど・池があったり灯篭があったり鹿威しの添水があったりする日本庭園風で・手入れがよくされている感じだ
さすが植木屋だったおじいちゃんの庭
でも・おじいちゃんが亡くなられてからは一体誰が手入れをしてるんだろ
「あら亜美ちゃん・いらっしゃいね/航太は遊びに行っちゃってるけど」
「ううん大丈夫・おじいちゃんの庭に会いに来たから」
鹿威しの添水は 水の力で音響を発生する装置だ
中央付近で支えて 上向きに片方を開けた竹筒に水を引き入れる・竹筒に水がいっぱいになると その重みで竹筒が頭を下げて水がこぼれて軽くなる・軽くなった竹筒が元に戻るトキに 石を勢いよく叩く音が響びき渡る
などと仕組みをコトバにすると ぜんぜん風流ではないし・だいたい何をもって風流なのかは未だに分かんない
水の流れる音とその水がたまっていく音と・竹筒が動くときの一瞬の静寂と石を叩く音とその空間の表記は難しい/ 一茶ならできるのかな
実は日本庭園のよさにだって・それを判断できるほど日本文化とかこういう庭セカイのことは知らない
でもおじいちゃんが ”自分の心で見て・それでよいと思えばいい庭というものだ” なんて云ってたので・心で見るようにしてて・それで気持ちがしづかに落ち着くな・と素直に思う
珍しい万年青の鉢があって・それは国宝ほどではないにしても年代物で・売ることはないけれど売るとしたら結構な値段になるらしい
おばあちゃんは・輪島塗りのお盆に載せて桜餅と日本茶を出してくれた
「今日はほうじ茶よ」
「新しい高校生活はどう? 航太に聞いても あんまり話してくれないから」
おばあちゃんは・季節に合う和菓子とその和菓子と時刻と天気に合わせた日本茶を選んでご馳走してくれる
おじいちゃんの庭も桜餅もほうじ茶もおばあちゃんも大好きだ
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