旧暦八月十五日の 山野 亜美

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旧暦八月十五日の 山野 亜美

「おばあちゃん・こんばんは」 玄関からでなく・玄関から右に入っちゃって庭から・縁側に座って待つ 秋の連休は・いつからか〔シルバーウィーク〕と呼ばれるようになった でも今日は平日だし明日もフツウに授業がある それでも来たのは・この庭から〔月〕を見たかったからだ 『中秋の名月』 旧暦の八月十五日の月をこう呼ぶ 「あら亜美(あみ)ちゃん・いらっしゃいね/航太(こうた) 二階いるけど 呼ぶ?」 「ううん いらない・チュウシュウノメイゲツに会いに来たから」 日本は・一年を三か月ずつ〔春夏秋冬〕の季節に分けた それぞれの季節を〔初中晩〕で更に細かく分けた これによると・旧暦八月十五日は秋の真ん中の月の真ん中の日となり その夜には満月が見られる 実はこれは正確ではなくて・旧暦八月十五日を調べていくと 満月でないことが多くある/ 1日か2日づれるらしい でも たいしたコトではない・要は月を愛でる気持ちにある 今日は浴衣だ 「庭の手入れって・誰がしているの?」 「航太がやってくれてるのよ」 おばあちゃんは・沖倉(おきくら) 航太(こうた)くんの母方のおばあちゃん 航太くんとはお母さん同士が親友で・でも航太くんのお母さんは私が幼稚園のころ病気で亡くなられて・お父さんは外国に単身赴任中で3年になる 小さい頃・男の子は皆 ”タロウ”がつくと思っていて・コウタロウ と呼んでいた それが違うと気づいた後も・呼び方は変えないでづっときている だから今・コウタロウは・おばあちゃんの家で暮らしている 「今日は・やっぱりお団子だから・玄米茶にしてみたの」 「ちょっとだけ里芋も入れてみちゃった」 中秋の名月はよく〔芋名月〕と呼ばれる と・コウタロウが二階から降りてきた/ 紺の作務衣を着ている 縁側に 少し離れて座わる 黙ったまま・でも並んで名月を見てお団子と玄米茶をいただく 二人とも 縁側から足を投げ出している 月 と 池に映る月 と お団子 コウタロウと呼び始めた頃は・おじいちゃんもいてみんなで月を見てたな いつからコウタロウは見なくなったんだって・ちらっと見て/ すぐに視線を月に戻す お父さんは旧暦八月生まれで〔山野(やまの) 仲秋(なかあき)〕という あれ? 〔中秋〕と〔仲秋〕 って違うのかな 「また〔栗名月〕 見に来ても いい?」 「もちろん・いいわよ」 おばちゃんは 嬉しそうに皺をより深くした
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