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1 ふるさとは・・・
いつも、というわけじゃない。このコンビニで営業の合間の朝か夜、駐車場でコーヒーを飲んでいると、幽かに、
「ちぃいん、ちん」ある日は
「ちんちんちんちん」
あれはたぶん仏壇のリンの音。
(リンにしてはリズムがあるというか、話してる感じ、そう会話のような)
どうもコイツを聞いてしまうと里心がつく。
(母ちゃん、どうしてるのかなあ)
って気になってしまう。
「ちぃいん、ちちちんちんちん!」
(ん、今日は気分がハイなのか?)
車から出てタバコに火を点けた。
「ちん・・・ちぃいん、ちちん」
「あれ、舞ちゃんやねェ、
今日は塾休みなんや」
「そうだね」
店舗周辺を掃除するコンビニの店員さんが話してるので
「あれ、リンですよね?仏壇の」
尋ねてみた。
「ええ、そうです。近所の高校生さん。
お母さんが亡くなりはってから、
ああやって仏壇とお話してるんです」
「なるほど・・・」
全く合点のいくリズム、俺の里心を誘うはず。
タバコの煙を仰ぎ追いかけると夕闇の山。ここは奈良に近い大阪。俺の家はさらにその山を太平洋へ越えた南紀串本。海以外何もない気がして高校を卒業したらすぐに大阪に来て15年・・・
(大阪でも何かが見つかったわけではない)
そう、ただ高卒でなんとかやれる仕事をして飯食って寝る、それを繰り返してきただけ。一年二年と帰りそびれたら帰省どころが電話すらしない。たまに母ちゃんが電話なんかしてくると迷惑そうにしてしまうんだ・・・。
「ちぃいん、ちぃいん、・・・ちぃいん」
「アカン・・・アカン・・・
泣けてまう音やないか・・・」
タバコを消して車中へ戻ってエンジンを、かけようとして手が止まる。助手席の携帯電話を掴んでしまった。
「もしもし、俺、・・・違う違う、
病気でも困ったこと・・・
あったわけでもない・・・
うんうん、大丈夫や!
オレオレ詐欺でもないよ。
ちょっと仕事の手が空いたんや
大丈夫や、元気やで。
そっちはどうや?親父や妹達も・・・」
話しながら俺はガキみたいに顔をグシャグシャに涙で汚してた。
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