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高速道路を下り、しばらく市街地を走ると民家や団地の姿が徐々に少なくなっていきます。ある角を曲がると緑が装飾された短いトンネルに出くわしますが、これを通過するとき、リクはいつも物語の世界にでも飛び込んだような錯覚を覚えました。
目の前には山が雄大にそびえ、道路を挟み込むなだらかな斜面には木々が生い茂っています。舗装が行き届いていないガタガタ道をうねりながら進みます。
都会のマンションに住むリクにとってはそれだけでも冒険感いっぱいで、小さな頃にはワクワクしたものでした。お父さんは隊長の真似をしてくれて、リクとお母さんは乗組員。窓を開ければ小鳥のさえずりが聞こえてきましたが、それに負けないくらい車内はキャッキャとにぎやかでした。
しかし、それも今は昔。車には英語だけが静かに響いています。お父さんとお母さんには内緒にしていましたが、リクは忘れたわけではないワクワクの灯火を消さぬよう、そっと温めることにしていました。
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