2772人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
出口の横にはまさにナイスタイミングで黒いスポーツカーが停まっていた。
「お帰りなさいませ、志岐本部長」
助手席側の窓が下がっていき、奥には眼鏡を光らせた樫木さんの偏屈な顔が現れる。
絢人さんはその窓めがけて、引き出物の紙袋をひとつ投げこんだ。樫木さんが驚いてハンドルに伏せると、袋は綺麗に手前の助手席に着地する。
「何するんです志岐本部長! 危ないですよ!」
「悪いな樫木。それ持って先に帰れ」
「なっ……!? なんですって!? この僕がせっかくお迎えに来たというのに! 尊敬する志岐本部長のお帰りを今か今かとお待ち申し上げてっ……」
樫木さんが助手席まで身を乗り出して抗議すると、絢人さんはその顔めがけて、私が持っていたふたつ目の袋も奪い取って投げ込んだ。
「ひゃー!」と叫び声を上げながら樫木さんがまたもやそれを避け、今度もうまく助手席に着地した。
「それもよろしく」
「志岐本部長ー! あなたという人はー!」
追いかけてきた先輩たちの集団はそのスポーツカーに引っかかって足止めをくらう。
身軽になった私の腰を持ち上げて、絢人さんは彼らに「じゃーな!」と手を振ってお城から走り去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!