今度は恋人に

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幸せを噛み締めたとき、絢人さんのスーツのポケットの中で、電話が鳴った。 ピリリリ、と目が覚める音がして、私たちの力は一瞬緩む。 「絢人さん、電話……」 「無視無視」 「ダメですよ、出てくださいっ」 彼の肩をトントンと叩いて急かすと、顔を歪め、私を地面に下ろしたが引き寄せたままで携帯電話を取り出した。 絢人さんは画面を見てさらに顔を歪めたが、観念してそれを耳に当てる。 「……おう、何だよ樫木」 また樫木さんか、と私も目を細めた。彼と絢人さんを取り合っている気分になるのも変な話だが、いつもタイミングが悪い。 私は口を曲げながら、樫木さんの電話に耳をそばだてた。
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