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気まずい沈黙。
春風は静かに話始めた。
「夜宵様と出会ったのは丁度今みたいなときです。桜の花弁が降る夜でした。夏月様のように生きることに不安になっていたら、“みんな不安は同じだ。桜も春がきて咲くまでは不安だろう、でも仲間がいる。ではあなたにはーーおれが傍にいようずっと”と。それがきっかけです、夜宵様と仲良くなったのは」
「……そうか。どうして春風はここにいることができてるんだ?」
「今日がはじめてです。死ぬ前に桜が叶えてくれたのでしょう」
さらりと春風は答えた。
「なんで、さっきの話からそんなことが言えるんだよ……」
「……夜宵様が亡くなってからずっと体調を崩し、お医者様でも治すことはできなかったのです。もう、身体も心も限界なのです夏月様……」
あまりにも辛い現実。
知らないうちにベンチから立ち上がり、春風の元に駆けていた。
そのまま春風を抱きしめる。
「ごめん……ごめん……」
体温もない。でも、すごく温かい。
「……夏月様。夜宵様にすごくよく似てて、双子かと思ってしまいました。今すごく幸せです。もう一度、夜宵様に会えたから。……ありがとう夏月……さ、ま……」
抱きしめていた春風は桜の花弁となって空へ散った。
知らないうちに頬に涙が伝う。きっと、夜宵もーー……。
夜が明ける。
それは今までで一番優しい夜明けだった。
優しい風に背中を押され、また今日も生きていく。
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