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秋哉は大げさに涙を流しながら、
「うっうっうっ……」
と泣いている。
それを夏樹は呆れた目で見ながら、
「そんな泣くことねぇじゃん。何かあったわけじゃあるめーし」
「何かあったら、泣くぐれーで済むかよ!」
秋哉はカッと牙を剥く。
「第一気色悪ィと思わねーのかよ。実のオトートに何してくれんだよ」
秋哉の怒鳴り声に夏樹は、
「泣くか怒るか、どっちかにしろよ、うっとーしいヤツだな」
身も蓋もないことを言って、
「だいたい、秋が俺のベッドで寝てるのが悪いんじゃねーか」
痛いところをつかれ秋哉はうっと詰まる。
でも、
「ナツキはベッドで寝てる人間は、問答無用で襲うのかよ」
すると夏樹は、
「当たり前だろ。わざわざベッドに忍び込んで来てくれる相手に、どんな遠慮がいるんだ?」
シレッと聞き返されると、ものすごく困る。
そしてちっとも悪びれる風もない夏樹に、秋哉はガクリと肩を落とした。
「ダメだ。日本語が通じる気がしねぇ」
夏樹は面倒くさそうに洗いっぱなしの赤い髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
そして、クシュンとひとつ可愛らしいくしゃみをした。
「……まったく、服ぐれー着てこいよな」
それが秋哉をパニックに落とした一因でもある。
夏樹はパンツ一枚履いていない、真っ裸だったのだ。
夏樹は、
「別にかまわねーだろ。鈴音はいねーんだし」
来生家の唯一の女性の鈴音は、春一とデート中で今夜は帰らない。
だからといって真っ裸で歩き回っていいとは言えないと思うが、鈴音がこのウチに来るまでは秋哉自身もそうだったから、またまた詰まる。
口達者な兄には、どうしたって敵う気がしない。
それに、
「秋こそ、俺のベッドで一体何してたんだよ」
面と向かってそう言われてしまうと、秋哉は今度こそ返す言葉を無くして黙り込んだ。
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