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この末弟は……。
こっちが弱っているとみるや、間髪入れずに畳みかけてくる。
チャンスを逃さず、確実にトドメを刺しに来る。
「……」
春一が今夜のために予約したのは、デラックスルーム。
デラックスルームといっても名ばかりで、このホテルのスタンダードルームだ。
階も4階とか、そんなレベル。
冬依の持つカードキーの向こうに、高笑いしている吾妻の顔が見える気がする。
やっぱり、
せっかくのクリスマスなのだから、ボーナス全部つぎ込む覚悟で思い切れば良かった。
でも今夜は指輪も買ったし、正直、今月はもうヤバい。
緊急用の貯金に手をつけるか、いや冬依が高校生になれば、また何かと物入りになるし、秋哉だって部活の遠征にいくらかかるかわからない。
あれは、予告なしにいきなり持ってこいと言われる非情な出費だ。
そんなことにふと頭を巡らし、ハッと我に返って思考を振り払った。
こんな風に所帯じみているからダメなのだ。
肝心なところで春一はいつだって決まらない。
鈴音が楽しみにしてくれたクリスマスデートなのに、結局は惨めな気分を味わうことになる。
5人で乗ったエレベーターを冬依たちより先に降りて、ふかふかする廊下を歩く。
そして部屋の前まで来て、カードキーをかざして、そこでようやく春一の決心がついた。
解錠されたドアを開けないまま、鈴音を振り返って、
「鈴音、なんだったら冬依の部屋に泊まって――」
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