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こんなことならおとなしく自分のベッドで寝ておけば良かったと後悔するがもう遅い。
全員が外出して誰もいない一晩ぐらい、広いベッドで寝てみたいと思ったのが、そもそもの間違いだった。
だがなぜ、同じ部屋の冬依のベッドにしなかったのかというと、それは、
「――臭い」
以前、部活から疲れて帰ってきた日、思わず冬依のベッドにダイブしひと寝入りした後に、冬依から冷たく言われたひと言が原因である。
「ボクのベッドが臭いんだけど、秋兄使った?」
「――っつ、使ってねーよ」
素知らぬ顔を決め込もうとしたが、ウソが付けないのが秋哉の美点である。
冬依は残念そうな目で秋哉を見つめ、
「ふう」
これ見よがしにため息をついてみせた。
そしてベッドのシーツを引っぺがし、
「鈴ちゃんに言って、新しいシーツに変えてもらわなきゃ」
「な、なんでだよ。そこまでしなくても別にいいんじゃね。ちゃんとシャワーは浴びたんだぜ!」
思わず声を荒げる秋哉だったが、冬依はチロンと視線を寄越すだけで何も言わない。
ただ、その白い視線が無言で秋哉を責めている。
「……うっ」
秋哉だって17歳の多感なお年頃なのだ。
実の弟からはっきり、
「臭い」
なんて言われてしまっては、傷つかないはずがない。
「オレってそんなに臭いか?」
思わずワキなど匂ってみるが、自分ではよくわからない。
思わず泣いてしまいそうになって、
「ちゃんと洗ったんだけど……」
訴えてはみたものの、冬依は淡々と秋哉の目の前でシーツを変える。
それから、
「はあ、さっぱりした」
精々した顔で言った。
「……」
もう、あんな惨めな思いをするのは懲り懲りである。
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