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こういうことを恥ずかしげもなく言い放つから、夏樹には迂闊に同情してやれない。
秋哉は、
「ケッ」
横をむいて悪態をつくが、そんな秋哉に夏樹は、
「クリスマスには気をつけろよ秋。今夜付き合うってことは、それなりに覚悟が必要だ」
「覚悟?」
「ああ。クリスマスの夜なんてどこもいっぱいだろう。結局、家でまったりしようってことになって部屋に招かれたんだが、ヤルことヤってベッドにいたら、いきなり彼女の両親が尋ねてきた」
「うわぁ! そりゃまた間の悪い」
もしも秋哉が同じ立場だったらと考えると血の気が引く。
男なら気まずいことこの上ない話だ。
だが、
「違うぞ秋……」
夏樹は恐ろしい顔をして首を振る。
「全部彼女の策略だったんだ。こっちはまだ服も着てねーとこに親を呼んで、既成事実を作られるところだった」
「……」
「結婚前提の婚約者として、親に紹介されそうになった」
「ナツキが婚約者……」
「ああドア越しにそんな話をしてるのを聞いた」
秋哉はびっくりして尋ねる。
「そんな関係の女がナツキにいたのか?」
夏樹は、春一の婚約者の鈴音に惚れているはずで、外で付き合う女の子は全員その気晴らしだったはず。
男としては最低な話だが、ままならない感情はわからなくはない。
だからけして夏樹を非難するつもりはないが、鈴音の他に本命がいるのなら、それはまた別の話だ。
道徳的にどうかという話だし、その本命彼女にも失礼すぎる。
思わず問い正そうとした秋哉に、夏樹は、
「だから違うって! 今日初めてデートした相手だぞ」
「初めてのデート……」
初めてのデートでベッドインしてしまう夏樹も夏樹だが、それを見込んで親を呼び寄せておく彼女も相当なクワセモノだ。
そういえば昨日、来生家に忍び込んできた女も夏樹のあずかり知らぬストーカーだった。
夏樹は少し、周りの女を厳選した方がいいかもしれない。
「裸足で窓から逃げ出すなんてマネ、中学んとき以来だぜ」
『中学時代から、いったいナニやってんだよ』
夏樹の遍歴につい突っ込みたくなって、
「少しは自重しろよなナツキ。今に背中から刺されても知らねーぞ」
秋哉の本音がポロリとこぼれると、夏樹はぶるっとひとつ身を震わせる。
そして、
「一緒に寝よーぜ秋、今夜は悪夢をみそうだ」
招くように布団の片側をあげて、めずらしく気弱な言葉を吐いた。
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