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ところが、ふと鈴音の言葉が気にかかる。
『……春さんには?』
鈴音は、春一にはプレゼントを買わずに、他の誰かには用意した、ということだろうか。
鈴音にもプレゼント交換しそうな女友だちはいるが、地元の北海道とかにだ。
それとも最近、近所に仲の良い友人でも出来たのだろうか。
『まさか吾妻じゃないだろうな』
ふと長島興産の若きCOO、長島貴久の顔が頭に浮かぶ。
鈴音は、兄弟たちも知らぬ間に、長島貴久とコンタクトを取っていたことがある。
『まさか……、だよな。どうせ冬依とかにだろうけど……』
首を振って打ち消してみるが、どうにも思い浮かんだ考えはなかなか消えてくれない。
それに鈴音の人の良いところにつけ込んで、吾妻が無理やりプレゼントを強請ったということも考えられる。
吾妻の周到さには定評がある。
というわけで、春一は恐る恐る、
「俺以外の誰にプレゼントを買ったの?」
鈴音に聞いてみた。
鈴音を責めるつもりは毛頭なかった。
でも責めてしまうような口調になってしまったかもしれない。
鈴音はパッと春一から顔をそむけてしまう。
「わぁ鈴音、ごめん」
春一は慌てて謝る。
せっかくのデートなのに、気まずくするなんて最低だ。
それもこんな些細なことに嫉妬してだなんて……。
己の器の小ささにうんざりしながら、
「深い意味はないんだ。答えたくないなら別に――」
言い訳を重ねようとすると、
「ごめんなさい。自分のを買っちゃったんです」
意外な鈴音の答え。
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