白に染まった、君

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 季節は、巡り巡って。何事もなかったかのように目を閉じ、幸せそうな顔で横たわっている君が、僕の目の前にいた。何度も、何度も声をかけても、もう二度とその目は開かれない。その綺麗な瞳に、僕を映してくれないんだ。あの優しげな声が、聞けないんだ。  病気だった。  君が亡くなる前夜、僕に言ったよね。「隠していて、ごめんなさい。ありがとう」と。まるで、もう命が尽きることをわかっているみたいに。僕に静かに、そう言ったんだ。  けれど、どうしてだろう。不思議と、涙は出なかった。君が病気だと聞かされて、悲しくなったのに、辛かったのに。こんなにも、胸が張り裂けそうなのに。  棺桶の中で、眠っているかのように目を閉じている君は、最後まで綺麗だった。  君の亡骸を見てから、数年。あれから、僕は誰とも付き合っていない。君が、「幸せになってね」と言ってくれたのに。度々、君と初めて会った時のことを思い出すんだ。白いワンピースに身を包み、無邪気な笑顔をしていた君を。 ――これからも、ずっと思い出す。僕が死ぬ時まで。  君がいなくなって、大きく感じる広めのベッド。そんなことを考えながら、この白に染まった部屋で、また僕は、目を閉じた。  君は、たくさんの白に包まれていたね。
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