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梨華と一緒に自宅へ帰ると、玄関先にいたのは僕の姉の澤田百合絵と麗だった。
僕の姉は、僕や梨華に対してはあまり興味が無いが母親には過剰に愛を求める、いわばマザコンという奴なのだ。
どうやら、麗の姿は姉には見えていないようだった。
「あら、おかえり。お母さんは?私、鍵持って無いんだよね……」
「お姉ちゃん鍵忘れたの?」
おもむろに、梨華はバックを漁ってから少し経った後、梨華の表情が曇った。
「まったく、しょうがないなぁ。……、あっ、私も忘れてた」
しょうがない姉妹だ。
僕は自分のバックから平然と鍵を取り出した。
鍵があるのは当たり前だろう。
それは最後にこの家を出て鍵を掛けたのは僕だからだ。
「はいっ!」
僕は黄色い星のキーホルダー付きの鍵を姉に向けて軽くほうり投げた。
姉は俊敏な反応でその鍵を受け取った。
「あんた普通に渡してよ!ってか、持ってるならあんたが開けなさいよ」
そんな事をぶつぶつと言いながら、姉は玄関の鍵を開けて中に入って行った。
まったく、姉は小言が多いなぁ……。
僕と梨華と僕以外には見えていない麗も一緒に家の中に入った。
自分の部屋に入ると悪びれもなく、麗も自分の部屋に付いて来た。
ミリスの件も聞きたいし。ま、いっか……。
僕は姉や妹には聞こえない様に麗に向けて小声で喋った。
「おい、あの洗脳の件どうなったんだ?」
「あれですね。やっぱり、ブラコン妹さんが普通の人だったのでチャームの魔法に掛かってただけです」
「やっぱりか……。でも、そうだとしたら何で洗脳が解けたんだ?」
「それはチャームの魔法が想いに弱いからです。あの時、ブラコン妹さんに触れたからだと思いますよ。確証は無いですが……」
「なるほど……。そういう事だったのか。でも、だとしたらどうやって皆の洗脳を解くんだ?」
「本体を叩けばいいんですよ!」
まさか、物理的にって事か?
「違いますよ!不本意ですが、主があのポンコツ悪魔に愛の告白をして愛を教えるのです」
僕の心の突っ込みに麗は否定して、変な提案をしてきた。
「はぁ?おいおい、それって絶対笑い者扱いされる奴じゃないか!」
「私だって苦渋の選択なんですよ……。それ以外に解決策が見つからないんです。まぁ、周りの人間の記憶は消しとくので大丈夫ですよ」
好きでも無い奴に愛を教えるほど、僕は非道では無いがこのままでは高校生活が狂ってしまうのは確かだ。
それにしても、周りの記憶を消せるなんてな……。
「ホント、お前って何でも出来るな……」
「そりゃ、そうですよ……」
僕はドヤ顔をしている天使を眺めながら、この天使が無駄に有能だとイラっとしながら理解した。
ドンッとうるさい音がドアから響き渡る。
「ちょっと、独り言うるさいんだけど!!」
あっ、やべ……。
どうやら、僕達の喋り声が外にまで響いてた様だ。
「なんでもないよ」
「なんでもない?は?」
そう言って、姉は僕の部屋のドアをこじ開けた。
「えっ、なにその子。一体、いつの間に入って来たの……」
「こ、これはその……」
僕は動揺した。
この場を切り抜けられるどういう言い訳をしようかと、頭の中でフル回転していた。
「私が見えるのですか?」
「は?」
霊感があるとか、麗はそういう流れに持っていこうとしているのだろう。
「あー、私ちょっと疲れてるのかもしれないわ……」
憑かれていると疲れてるを掛けているのか?
姉は自然に言ってるかもしれないが僕には駄洒落としか思えない。
そう言って、何事も無かったかの様に姉は僕の部屋に出て行った。
「やっぱ、ここの人達ってカラかい甲斐がありますね」
「ほどほどにしとけよ……」
からかって笑っている麗を見て、ホントに天使なのかと疑問を抱いてしまった。
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