第2章 心の声 第1節〜天使の違和感〜

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第2章 心の声 第1節〜天使の違和感〜

僕達はちゃんとクラスに戻ることが出来た。 僕は自分の机に着いた。 まだ、遅刻していないようだ。 『良かったじゃないか……。間に合って』 ああ、どうなるかと思ったよ。 『君はあの天使と会話しなくていいのかい?』 そういえば、声が聞こえないなぁ……。 『ふふっ、聞こえないみたいだね……。だって、僕が君とあの天使とのテレパシーをブロックしてるからね』 えっ?なんでそんな事を……。 『だって、君の優しさに触れて、君を僕だけのモノにして独り占めしたくなってね』 それって? 『そのままの意味だよ……』 どういう事だよ……。 『気が付かないなら、そのままの関係でも僕はいいよ……。ずっと、考えてればいいさ』 はぁ……。どうすればいいんだよ。 女って何考えてるか分かんねぇな……。 『ん?何か失礼な事を言われた気がするけど……』 いや、なんでもないよ……。 『ほら、授業が始まるみたいだよ』  学校の授業は散々だった。 問題を出された時に全授業で指されるし、別に教師全員に恨みを買われた訳じゃないのに全部当たるなんて何かおかしい。  これは絶対あのポンコツ悪魔が何かしたに違いない。 学校の帰り道、僕は麗と一緒に帰った。 「主、おかえりなさい……。今日の授業、散々でしたね。でも、私、心の声で答えを教えましたけどなんで間違ってたんですか?」 「ちょっと、考え事しててな……」 「そう……ですか」  麗は僕の事を怪しいと思ってるのだろう。 少し顔を下に俯き、(あご)を右手の親指と人差し指でスリスリしだした。 今まで考えている事が手に取るように分かっていたのに、急に心の声が聞こえなくなるのは誰だって疑いたくもなるだろう。 たとえ、それが天使のアンドロイドだとしても例外ではないだろう。 「最近、隠し事してますよね?」 「えっ?」 「やっぱり、顔の表面から汗と心臓の鼓動の変化も感知しました。やはり、主は隠し事をしてますよね?私は未来から来た天使のアンドロイドですよ?それくらい、分かりますよ」 悲しそうに俯いて、麗はそう言った。 「そっか、分かってたか……」 「何を隠しているのか分からないですけど……。言いたくないなら大丈夫ですよ」 きっと、真実を知ってしまったら麗はルフェスに会いたくなるだろう。 生みの親なんだから当たり前だろう。 「……」 「分かりました。早く帰りましょう!きっと、あのブラコン妹さんも待ってますよ……。主の事、好きですからね」 ニコッと微笑みながら麗は僕に向けて言った。 そして、僕の前へ走り出した。  麗は翼を広げて、僕を背中に乗せた。 「急にどうしたんだ?うわ、浮いてる……」 「主、空を飛ぶってこんな感じなんですよ……。主が悲しい顔をするのは嫌です。私にとっても主は特別な人なんです」 「それは分かってるよ……」 「いや、主は分かってないです……。アンドロイドだって、女の子なんです……。主はまったく女の子の気持ちを分かってないです」 「女の子の気持ち?」 「だって、主は私の事を麗って呼び捨てで言ってくれないじゃないですか?女の子って、呼び捨てで言われるの嬉しいんですよ。特に特別な人に言われると……」 「そうだったのか……。気づいてやれなくてごめんな。麗……」 「主は謝らなくていいんですよ……。私が最初から言っておけば良かったですね。でも、その呼び捨て嬉しいです。心にグッときました。『主に想っていただける』それだけで、私は嬉しいんです」 僕を乗せ、飛翔しながら麗は泣いてたんだと思う。 AIだろうが、天使だろうが、麗は麗なんだと思った。 麗の想いを知って、1人の女の子なんだと思った。 麗は家の前に僕を降ろした。 「ほら、主……。着きましたよ」 「麗、ありがとな」 「えへへ、ありがとうございます!主……」 梨華が麗に向けて、頭をコツンと叩いた。 「まったく、ブラコン妹さんは痛いですね」 「馬鹿天使っ!!なんで、お兄ちゃんといい感じになってるのよ!!」 「ふふっ、なんででしょうね?きっと、私と主は運命の赤い糸で結ばれてるのかもしれませんね」  麗は不敵な笑みを浮かべて、いつもの様に梨華をあざ笑っていた。
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