第1章

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「何となく分かるんだ、俺の中でかなりのスピードでガンが広がってる。 時間がないんだ。抗がん剤で体力を奪われたくない。」 高村くんの考えを変えることは出来そうになかった それでも治療をして欲しかった。医学は日々進んでいるんだから、彼のガンに効く薬が発見されるかもしれないのに… 「一時苦しくてもガンを殺すことができれば長く生きられるよ。」 わかってくれない彼が腹立たしくて、だんだん声も大きくなっていく。 「夕貴も知ってるだろ? 健がどんなに辛そうだったか。」 健さんは5年前胃癌で亡くなった。享年62歳だった。 早期に発見されたと言うのに亡くなってしまった。 早期胃ガンを取り除き完治してみんなして喜んだ矢先、小さい転移が見つかった。 抗がん剤治療で定期的に入退院を繰り返すうち、痩せ細ってあっという間に亡くなった。 それは長い付き合いの高村くんにはかなりのショックだった。 知らせを聞いたとき、暫く茫然と立ち尽くしていたのを思い出す。 そのことが高村くんの考えに影響しているようだった。
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