「あちら側」の転校生

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暖かい日差しに澄んだ空気が心地良い、桜舞う4月の某日。無事に高校二年生に上がった私の、特に変わり映えのない日常が始まろうとしていた。担任が教室に入ってきて、口を開くまでは。 「おっしゃみんな、今日は転校生を紹介するぞ。仲良くしてやってくれな!」 この一言に、教室中がどよめきに包まれた。 担任がガラリと教室の引き戸を開けると、どよめきは止み、教室の空気が緊張でピンと張る。クラスメイトからの注目を一身に受けて、颯爽と転校生は登場した。 「初めまして。今日から2年B組でお世話になります。山本美奈子って言います。よろしくお願いします。」 転校生の凛とした声が教室に響き渡る。 整った顔立ちに艶のある黒髪のロングヘアー、スタイルの良い肢体。まるでモデルのように完璧な容姿を持つ彼女の出現に、今度は教室中に喜色を帯びたどよめきが溢れた。 そのどよめきの中、取り残された私は冷静に、彼女は間違いなく「あちら側」の人間だと確信をしていた。 私は初対面の相手に対して、「こちら側」の人間と「あちら側」の人間に線引きしてしまう悪癖がある。 「あちら側」の人間とは、美しく華やかな容姿や、明るく派手な性格などを持っている人間で、醜悪な容姿を持ち、陰気で自己否定感の塊のような私自身とは正反対の人間のことだ。 私は、「あちら側」の人間と判断した相手に対しては、距離を置き、心を閉ざしてしまう。経験上、そういった相手と関わって良い思いをした事が無かったからだ。 人間は、自分や周囲が当たり前に持っているもののレベルから明らかに逸脱した者に対して、残酷な仕打ちをし得るのだ。 だから、「こちら側」と「あちら側」に線引きし、お互い深く関わりあわない他人の距離感でいる事は、自己防衛のためであったし、これまでもこれからも、そうやって生きていくと思っていた。 …しかし、この女、山本美奈子には、この線引きが効かなかったのだ。 今となっては、美奈子と出会えたことに感謝の思いしかないが、当時は、美奈子と私を出会わせてしまった神を憎悪する日々をしばらく送ることになる。
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