家宝

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 幼なじみの優介や康平なら一緒に入ったことがあるのかもしれないけれど、自分は小学生のしばらくの間、あの蔵に入る事をおばあちゃんから固く禁じられていた時期がある。 再び蔵に入れるようになったのは中学生になってからなので、いくら物忘れが激しい自分でも、さすがにその頃の思い出ならちゃんと覚えているはずだ。 それにあの時の優介の話し方はどことなく様子がおかしかった。「そんな事あったっけ?」と聞き返した私に、「覚えていないなら別にいい」と言葉を濁してすぐに会話を終わらせたのだ。 「んー……どういうことなんだろう」  様々な疑問が糸のように絡まり合い、団子になって頭の中を転がっていく。 その糸の先っぽを掴み、記憶のかたまりを本来の形に戻そうとすると、胸の奥で何かが疼いた。それは一瞬輪郭を現したものの、すぐさまバラバラになって心の海の底へと消えていく。 ーー私は何か大切なことを忘れているーー   不意に訪れた静寂に、そんな奇妙な感覚だけが残った。  彩菜はもう一度その正体を確かめようと、暗闇の中でじっと目を凝らそうとした。が、徐々に重たくなっていく瞼に逆らうことができずに目を閉じてしまう。  まるで夜が明ける前に飛び立ってしまった蝶のように、彼女の意識は深い夢の世界へと消えていった。
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