第1章

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 窓には分厚いカーテンが引かれ、昼でも薄暗かった。ボクが引きこもることになった原因は確かいじめだったと思う。もうかれこれ二十年もボクはこの部屋を出なくなっていた。  今は両親の金でなんとかなっているが、その後は? もうこの歳では雇ってくれるところもないだろう。終わりだ。俺の人生はもう終わった。そのうち独りぼっちで腐乱死体になるのだ。  パソコンゲームの画面から顔を上げたボクはふとカーテンに隙間が開いていることに気がついた。  閉めようと手を伸ばした所で、外の景色が目に入った。  時は黄昏時。家の前の道路に箱型の荷台を持つトラックが停まっていた。にっこり笑ったウサギの絵の下に、『ファンシーショップうさゆさ』と店名が描かれている。きっと女性や子供が好むような雑貨を売っているのだろう。ご丁寧に、運転手の女性はウサギのカチューシャをしている。  そのウサギトラックの後ろから、ランドセルを背負った女の子が歩いてきた。ウサギの柄に気がついたその子は興味を引かれたらしく、その前に立ち止まった。  それから起きたことは、あまりにも現実離れしていて、ばかげて見えるくらいだった。絵のウサギが、牙だらけの口を開けた。舌を伸ばし、少女の胴体をつかむ。そして口の中に放り込んだ。  トラックのウサギから一筋血が流れていなければ、見間違いか白昼夢だと思うところだ。  エンジンがかかり、トラックは走り去った。 (一体、今のは何だったんだ?)  今の光景を頭の中で何度も繰り返す。あのトラックは生き物か? あの運転手は人間か? 考えまくっても答えなんて出るはずはない。  とにかくパソコンで『うさゆさ』というファンシーショップのことを調べてみたけれど、一件もヒットしなかった。  それからしばらくして、こんな噂が流れた。『ファンシーショップうさゆさのトラックに描かれたウサギを触ると幸せになれる』。  それは、ボクが流した噂だ。これで、少女だけでなく色々な人間があのトラックに近づいて喰われるだろう。  あの瞬間、ボクはゾクゾクとした快感を感じていた。希望と未来にあふれた人間が一瞬にして死んだことに。  そうだ、世の中はこんなふうに理不尽でなければならない。ボクをいじめていた奴は今も幸せに生きているのに、ボクは不幸だ。だからもっともっと理不尽に不幸になる人を増やすんだ。ボクと同じように。
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