<短編>注文の多い料理店

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<短編>注文の多い料理店

 急に降り出した雨の中、駅前繁華街の裏通りを、一組のカップルがずぶ濡れになりながら、足早に駆けていた。 「もう! あなたが二時間も遅れるから、せっかく予約したレストランに入れなかったじゃない!」  バッグを頭の上にかざして、少しばかりの雨よけにしながら、女性は声を荒げて男性を睨みつけた。 「だから、何度もごめんって言ってるだろ! 俺だって、遅れたくて遅れたんじゃない。仕事で急なトラブルが起きたんだから、仕方ないじゃないか!」  男性の方は、髪もスーツの上着も濡れるに任せながら、少し苛ついた表情で吐き捨てるように女性に言い返した。 「だから私は、休みの日にしようって言ったのに、貴也(たかや)君が大丈夫だって言ったんだよ!クリスマスイブに、予約時間を二時間も遅れたら、お店に入れないの当たり前じゃない!」 「由香里(ゆかり)の誕生日が今日だから、今日にしたかったんだって! 俺の気持ちもわかってくれよ!」 「それはわかるけど、寒い中ずっと待ってた私の気持ちもわかってよ!」  せっかく誕生日の祝いにと、由香里のことを思って、奮発してフランス料理を予約したのに。     
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