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東京都心からバスで約一時間。 歩くと、約十時間。 そこは、のどかな田園風景が広がる住宅街だった。見渡す限りの緑で、高層ビルに囲まれた街で生きていた男にとっては見慣れないものだった。 目的地はもう少し先だ。もうすっかり夜になってしまったが、寧ろその方が都合がいい。歩き疲れてヘトヘトの足を、なんとか前に出す。男の履いている古いスニーカーは表面が破けているわ靴底が捲れているわで、どこからどう見てもボロボロだった。靴だけではない。草臥れたペラペラのチノパンに、黄色のシミが付いたトレーナー。上からはやけに真新しいパーカーを羽織っているが、これだけではどうにも寒い。来る冬に備えて新しいコートを手にする必要があった。 そう、とにかく今は金が欲しい。その為なら何だってする。 この男は、そういう類いの人間だった。 住宅街を抜け、見晴らしのいい丘を登った辺りにそれはあった。 下に並ぶ家々を見下ろすように、ポツリと一件。レンガ造りの小さな洋館がそこに建っていた。 静かな草原。ぽうと優しく光るオレンジのライト。その中に浮かび上がる妖しい洋館。まるで、その場だけ旧ヨーロッパへとタイムスリップしたようだった。     
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