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中に入った途端に響いた怒号。それと同時にピカッと照らされた懐中電灯のライトに目を眩ませる。
そこにいたのは、中年の警備員だった。上下同じ紺色のスーツに赤いネクタイ、更に警備会社のシンボルと思われるマークの入った帽子など、その姿は警備員である事をアピールしているようだった。
中に人がいるとは想定していなかった。少し考えれば分かりそうな事だが、男はあまり賢い方ではなかった。
「お前、泥棒か!?」
警備員は男を警戒しつつも、もう一度、声をかけた。その丸く見開いた瞳は、男の無精髭に覆われた決して清潔とはいえないその顔をはっきりと映していた。
男は焦っていた。
だが、だからといって慌てふためくような真似はしなかった。
「……うわっ!?」
男は、上着の下に隠してあった鋭く尖ったナイフを取り出すと、素早い動きで彼に襲い掛かった。
彼には叫び声を上げる余裕すらなかった。
事切れた警備員の死体を前に、男は小さく溜め息をついた。
────あぁ、またやってしまった。折角、自由の身になれたというのに。今度捕まったらきっともう二度と出られない。わざわざ人の居なさそうな場所を選んだのに。あーあ、こんな所に警備員なんていなければ。
男は警備員の死体を思い切り蹴飛ばした。力なくゴロゴロと転がるその様を遠い目で見つめる。
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