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電車内
ロングシートとクロスシートが混ざって配置された電車の車内。四両編成の先頭車両には席が埋まるほどの乗客がこの駅から乗り込むが、智花はロングシートの端をなんとか確保する。由紀はその目の前のポールにつかまり、ふら付きながら彼女の正面を陣取っている。
「詰めてあげるからあんたも座りなさいよ。そんな所に立ってないで」
「ううん、いい」
「なに遠慮してるのよ? さっきからふらふらしてる癖に」
「い、いや、そうじゃなくて。この格好で座ると、スカートが上がっちゃいそうで……」
右手にポールを掴んだ由紀の左手は、体を支える右手と同程度の力でスカートのすそを掴んでいる。まるでそれにかかる重力に加担する様に、面積の決して広くない生地を軽く押し伸ばしていた。
「情けないわね。逆に見せつけるくらいの気持ちでいなさい。何の為に私がその服を貸してあげたと思ってるの?」
「それはこっちが聞きたいよぉ……」
「いつも言ってるでしょ。私は、あんたに可愛い格好をさせるのが好きなの。文句ある?」
「文句は無いけど……こんな服普段は着ないし。人が多い所に出かけるのはやっぱり恥ずかしいっていうか」
「学校ではいつもよれっよれのトレーナーに、いつ洗ったか分からない様なジーンズばっかり履いてるからでしょ?」
「ちゃ、ちゃんと洗ってるってば」
「そんな事はどうでもいいの。少しでも知り合いの少ないであろう校区外を選んであげた事に感謝しなさい」
「それは智花が今日行きたいって言ったお店が、たまたま校区外だっただけなんじゃ……?」
「うるさいわね由紀の癖に。スカートめくるわよ」
「セクハラ……」
結局その位置関係のまま二駅進み、目的の駅へ到着した二人は電車を降りる。階段前でまごつく由紀と智花は先程と同様のやり取りを繰り広げながら、駅構内より直結しているショッピングモールへと足を運んだ。
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