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日曜日は塚越さんとのデートの日である。弘美はお気に入りのシャツにひざ丈のフレアースカートを着て待ち合わせの駅に向かった。駅の目の前にあるカフェにいると、見ず知らずの男性に声をかけられた。
「あれ?沙也加ちゃん、この前はどうも。またお願いしてもいいかなー。」
「すみません。人違いでは?私の名前は沙也加ではありません」
「あれっ。御免なさい。そっくりだったものだから」
男性はそう謝って帰ろうとした。するとちょうど塚越さんがやってきた。
「弘美ちゃん。いつも早いね。知り合いの方?」
「いいえ。人違いなの」
「すみません。知り合いの沙也加ちゃんに似ていたからつい・・・」
「沙也加ちゃん?」
塚越さんが驚いた声をあげた。
「塚越さんも知っているの?その人」
今度は弘美が驚いて尋ねる。
「弘美ちゃんは解らないの?」
「知らないわ。そんなに私に似ている人がいるの?」
「・・・・」
すると見ず知らずの男性は居づらくなったのか
「僕は忙しいので、これで。どうもお騒がせしてすみませんでした」
そう言い残して去っていった。
弘美は何が何だか解らないまま立ち尽くしていた。塚越さんが、
「この前の日曜日の事覚えている?」と聞いてきた。
「御免なさい。ワインを飲んでから記憶がないの」
「弘美ちゃんは自分の事を沙也加だって言っていた」
「私が?!」
その後の事を塚越さんから聞くと弘美はますます驚いた。
「私はてっきり酔っぱらって寝てしまったのだと思っていたわ」
「僕は酔ってふざけているのだと思っていた」
「もう一人の私がいるみたい」
「まるで多重人格みたいだな」
弘美は怖くなった。多重人格の事は前に本で読んだ事がある。解離性同一性障害と書いてあった。自分の中に色々な人格が存在してしまう病気。どうしよう。
「沙也加って人格がいるのかしら」
「そんな感じだな。どうも普段の弘美ちゃんとは全然違うと思ったよ」
「どんな性格?」
「はっきりとは言えないな。まだ一度しか会っていないし、時間も短い間だったから」
塚越さんは何か考えこんだようであった。弘美はそんな病気を抱えてしまって、塚越さんに嫌われたらどうしようと怖さと不安で一杯になってしまった。
「大丈夫だよ。僕がついている」
塚越さんが優しく肩を抱いてくれた。それでも弘美の不安はなかなかった。
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