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次の日、目を覚ました弘美はしばらく何があったのか思い出せずにいた。 そうだ。頭の中で声がしたのだった。それからの記憶がない。きっと沙也加が出て来たに違いない。弘美は困ってしまった。塚越さんに相談してみよう。そう思ってスマホを持った時だった。偶然にも塚越さんからの着信がなった。 「もしもし。弘美ちゃん?」 「ええ。私もちょうど電話しようと思っていたの」 「沙也加ちゃんの事で?」 「よく解ったわね。そうなの。昨日は丸々一日記憶が無いの」 「病院に行った方が良いのかもしれないな」 「私はなんだか怖くなってきたわ」 「大丈夫だよ。今日はランチでもどう?」 「ええ。いつものカフェで待っているわ」 そう言って電話を切った。その後出かける為の準備をしていると、母親からの着信が鳴ったが、弘美は嫌な予感がしたので電話に出なかった。 約束の場所で本を読みながら待っていると、塚越さんはいつもは時間ぴったり位に来るのだが今日は何時もより早く来た。 「何だか、早く弘美ちゃんに話がしたくて、いつもより早めに来ちゃった」 「何かあったの?」 「実は昨日、沙也加ちゃんに会ったんだ」 「沙也加に?どこで会ったの?」 弘美はびっくりした。全く覚えていない。 「焼肉屋さんで。男性と一緒だったよ。彼氏だと言っていた」 「沙也加に彼氏がいるの?」 「仲が良さそうで妬いてしまったな」 「御免なさい。私全然記憶に無いの」 「冗談だよ。でも沙也加ちゃんは多重人格の事、把握しているみたいだったな」 「そうなの?そう言えば頭の中で「そこをどいてくれない?」って声がしたわ」 「沙也加ちゃんは自分の意思で出て来れるのかな。いずれにしても早く病院に行った方がいい」 「精神科にいけばいいのかしら」 「駅の近くにメンタルクリニックがあったから、まずはそこへ行ってみたらどう?」 「そうね。そうするわ」 (そうはさせないわ) 突然弘美は俯いた。
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