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暫く悩んでいると弘美の名前が呼ばれた。 「どうする?一人で行ってくる?」 「ええ。そうするわ」 弘美は診察室に入った。相談内容は予め受診の際の用紙に書いてある。医師はその用紙を見ながら、 「記憶が無い事があるのですね」 と困った顔をして弘美の方を見た。 「はい。どうやらその間、沙也加という人間になっているらしいのです」 「うーん。沙也加さんは何をしに現れているのかな?」 「それが良く解らなくて。ただ親しい男性がいるみたいなのです」 「それで困っているんだね。今、沙也加さんがいれば話を聞きたいのだけれど、無理かな」 「解りません。でも最近は頻繁に表れるので、今日も現れるかも。沙也加?聞いていたら変わってくれないかしら?」 弘美は一人事のように自分に問いかけた。弘美が俯いたかと思うと沙也加がやってきた。 「初めまして。先生。沙也加です」 「沙也加さん。はじめまして」 「先生。私達上手く共存しているのです。だから治療しなくても大丈夫ですよ」 「でも弘美さんは困っているみたいでしたよ」 「西林さんの事なら心配する事ないわ。とってもいい人よ」 「西林さんと言うのは?」 「私の彼氏。まだ付き合ったばかりだけれどね」 「沙也加さんは西林さんと会う為にでてくるの?」 「違うわ。母親に渡すお金をどうにかする為よ」 沙也加は言ってしまった事を後悔するように眉をひそめ、泣きそうになった。そうして俯くと弘美が涙を浮かべながら、 「先生、今沙也加が出てきたでしょう」 と言った。
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