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その後、軽い安定剤を処方してくれるとの事で弘美は病院近くの薬局に塚越さんと来た。
「やっぱり、解離性同一性障害って言われたわ。多重人格ですって。先生は徐々に治していきましょうって。困ったわ」
「急がば回れだよ」
「そうかしら」
今では沙也加は自由に弘美の体を出入りしている。不安に押し潰されそうになる。
「大丈夫だよ。僕が今度沙也加ちゃんに会ったら、悪い事をしない様にお願いしておいてあげる」
「塚越さん。有難う」
弘美はまた泣きたくなった。
土曜日がやってきた。沙也加にとっては待ちに待った土曜日である。西林さんとのデートの日だ。今日は二人で横浜まで遊びに行く予定なのだ。
「沙也加ちゃん、お待たせ」
西林さんが屈託のない笑顔で現れる。沙也加は嬉しくてたまらなくなり、西林と腕を組む。
「沙也加ちゃん、今日も可愛いワンピースだね。行先は横浜でいい?」
「ええ。楽しみにしていたの」
二人は横浜の街を散策した後、西林さんが予約をしておいてくれた、ホテルのランチビュッフェに来た。
「ワインを頂いてもいいかしら?」
「勿論いいよ。じゃあ僕も貰おうかな」
沙也加はワインを口に運びながら、
「お酒を飲むと、胃が温まる感じが好きなの」
と言った。
「寂しいのかな?沙也加ちゃんは」
「私と弘美と二人とも寂しいみたい」
「誰?弘美ちゃんって?」
「御免なさい。お姉さんみたいな人よ」
「そう。僕が少しでも役にたてると嬉しいな」
沙也加はその言葉を聞くと、西林さんの為に、もう売春みたいな事は止めにしようと思った。
するとどうしたのだろう。その途端に沙也加が居なくなり、弘美が現れた。
「あの・・・。御免なさい。貴方は誰ですか?」
「どうしたの沙也加ちゃん。僕が解らない?」
「沙也加がいたのね。私は弘美」
「いったいどういう事?」
「私にもよく解らないけれど、貴方いい人みたい。なんとなく解るの。きっと沙也加は貴方の事好きだったのだわ」
弘美は沙也加の気持ちが解るような気がしてきた。もしかして二人が一人になったのだろうか。これからこの人と塚越さん、どちらとお付き合いしよう。そんな事を考えたら、一人で笑ってしまった。
「どうしたの?沙也加ちゃん?」
「御免なさい。もう一度乾杯しましょう」
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