第三章、悦びの歌

1/30
前へ
/70ページ
次へ

第三章、悦びの歌

 秋が深くなり、少中高いずれかの学校の近くを通ると合唱コンクールの練習をする子ども達の声が聴こえてくる。あたしの時はもう何を歌ったか覚えていない…… この歳で認知症でも始まって来たのだろうか。嫌だわぁ歳を取るのは。 『微笑み、交わして、語り合い~♪』 そうそう、これこれ。夢の世界をだったかな? 秋頃になると皆で遅くまで学校に残って歌ったのを覚えてる。それがあるからクラス分けもピアノが弾ける子を各クラスに配置するために分散するのよね。そのせいで親友同士が分散される悲劇を何回見てきたことだか。  こうしてノスタルジックに浸っている暇は無い。さっさとパートに行かないと。 あたしは魔法少女になった後もパートを辞めていなかった。魔法少女なら別にこんなことしなくても稼げるじゃないかと思われがちだがそうでもない。 「金出てこい!」 確かにお金は出るのだが全てが同じナンバー、使えば偽札で即御用の代物である。どこかからお金を転移こそ出来るのだが「盗み」には使わないと誓ったので論外だ。銀行からいきなり大量のお金が消えたら大騒ぎになるのは間違いない。これで首を吊るような銀行員まで出てくるかもしれない。ならば表沙汰にならないお金の転移も考えたが「盗み」には変わりが無い。 錬金術みたいなもので金塊を出してみたが、今金を売るためには「出元」がはっきりしていないと駄目らしい。インゴットにもマテリアルバーにもナンバーが振り分けられている。試しに変装して作り出した金塊を売りに行ったが出元をしつこく聞かれて何もせずに帰ってしまった。 要は、お金は汗水流して稼げと言うことである。魔法で楽して稼ごうとしたのがそもそもの間違いであった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加