第一章、おばちゃんは魔法少女になってしまった

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 あたしは田中富喜江。43歳、職業スーパーマーケットのパート。いわゆる普通のオバちゃんである。 ここであたしの半生を聞いた所で面白くないだろう。だって、いい意味でも悪い意味でも普通なのだから。 普通に女子校を卒業し、OLをしていた時に今の旦那と結婚、2人の子供をもうける。今や大学生の娘と中学生の息子持ち。2人の子供が出来たとなると家計も夫の給料では少し足が出る。だからあたしは子供が世話のかからない年齢になると同時に近所のスーパーマーケットにパートに出ることにした。配偶者控除の150万円を超えない程度には細々と仕事をしている。昔の103万に比べたら随分と楽になったものだ。 あたしが何の面白みも無い普通のオバちゃんなのは明らかである。  とある日曜日の朝、あたしは息子の部屋の掃除の為に部屋に入った。ノックはしない。実の息子の部屋に入る時にノックなぞ必要あるものだろうか。エロ本を読んでゲヘゲヘと涎を垂らしている姿を見ても動揺するようなネンネでは無い。 「のわっ!」 息子は驚いた。一体何よ「のわっ!」って。普通は「うわっ!」とかじゃない? それはともかくとして息子はテレビを見ていた。ピンク色のフリフリした服とマントにつば広ハットを纏った金髪の中学生ぐらいの女の子がハートの意匠を付けたステッキから訳のわからない光を出して巨大な化け物を倒すアニメだ。所謂魔法少女ものと言うやつだろうか。 「あんた男なのにこんなもの見てるの」 「うるっさいなぁ。別にいいだろ」 反抗期真っ盛りなのかここ最近あたしに対する口調が荒い。上の娘が中学生の時に経験しているので何も気にすることはない。長くても高校二年生までには終わるだろう。  あたしは構わずに掃除機を掛けた。烈風と何とも昭和チックな名前を付けられた掃除機が息子の部屋で轟音をかき鳴らす。 「掃除機うるさい」 「仕方ないでしょ」 確かに昭和の漢字二文字で名付けられた家電品は何もかもがうるさかった。メーカー様も何もこんな所まで再現しなくてもいいのに。
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