第二章、この町の平和の為に

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ピンポーン チャイムが鳴った。あたしは小走りで玄関の前に出る。客人は紙袋を持った翼であった。 「あら、どうしたの?」 「あ、さっきはありがとうございました」 「良いのよ、気にしなくて」 しまった。さっきこの子を助けたのはあたしじゃなくて魔法少女オバちゃんだ。つい脊髄的に反応してしまった。そんな事に構わずに翼は紙袋を差し出した。 「クリーニングに出してきました」 ああ、近所のスーパーの中に入ってるクリーニング店は一日仕上げだったわね。家帰って即着替えて出したと言うことか。紙袋の中にはビニールに包まれた息子の私服と羊羹の箱が入っていた。ちなみに一箱数千円の高級羊羹であった。 「別にそんな事しなくて良かったのに…… こんな良いものまで貰っちゃって」 「いえ…… 友達も居ないんでお金使う事も無いんで」 悲しい事実を聞いてしまった。伊藤家の奴らのイジメのターゲットになっているから関わったら危(ヤバ)いみたいな感じで友達も出来ないのね。 「それじゃあ、本当にありがとうございました」 翼はその場から去ろうとした。あたしはそれを止めた。 「そうだ。あともう少しであなたの悩みが解決すると思うわよ」 「え?」 「おばちゃんの情報網ナメちゃダメよ」 ついさっき聞いたばかりの話。伊藤村の周りには続々と引っ越してくる人が多いとの事。これが進めば伊藤村は「余所者」に囲まれる事になるだろう。この包囲された状態で村八分みたいな事を続けていけるはずがない。時が進めば伊藤村なんてものは無くなるだろう。 あの馬鹿息子たちも悪さ出来ないようにシメといたし、少なくともこの子の身の安全は保証されるだろう。それでも何かするようなら西東京の山奥にあいつらの家を転移でもさせてやろうかしら。 「じゃ、羊羹美味しく頂くわね。ちょうどお茶請けが欲しかったのよ」 「ああ、良かった」 「それじゃあ」 事が落ち着いたら息子に翼と話してあげるように言った方が良いかも知れない。
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