第二章、この町の平和の為に

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 あたしはリビングに戻った。息子は友人と共にリバーシの2回戦目を始めていた。 「獅子屋の羊羹貰ったわよ。皆で食べましょう」 獅子屋、都内の一等地に本社を構える和菓子メーカーである。ししやのブランドで知られる。京都で創業し、時の天皇に和菓子を献上していた事により皇室御用達の製菓業者となった。贈答品として贈られる芋羊羹は口の中が全部とろける程に甘いと言われ、何かを送る時の定番となっている。 「へー、お母さんこんな良いものくれる人と知り合いになったんだ」 良いものと言っても息子の小遣い一か月分ぐらいである。あんたの小遣いじゃあ一ヶ月、駄菓子を我慢して映画も観ないし何処にも遊びに行かない覚悟をしないと食べられないんだから堪能しなさいよ。 水屋の奥に仕舞ってある最高級の緑茶「髑髏(どくろ)」を出して息子の友人に見栄を張ろうと思ったがやめておいた。この手の甘い羊羹には広告の品980円程度のお茶が一番合う。苦味と渋みのあるお茶の方が羊羹には合っているのは常識。 3人で羊羹に舌鼓を打っているとスマートフォンの着信音が鳴り響いた。誰のかと思えば息子の友人のものであった。 「あ、すいません」 息子の友人は申し訳なさそうにスマートフォンをカチカチといじり始めた。画面をスクロールして下に行けば行くほどに驚きの顔を見せた。 「誰から?」 「ウチのクラスの連絡網、クラスの連絡事項は全部レインでやってるんだ」 レイン、レイン株式会社が提供するSNSサービスの事である。無料通話、無料メール、テキストチャットなどのサービスを提供している。息子の友人はテキストチャットのグループでクラスの連絡事項を行っていた。あたしが学生の時の「連絡網」はもう影も形も無い。 いちいち名簿順にリレー方式に電話するってシステムがよく成り立ってたものである。 「うちのクラスの伊藤達が入院した」 息子は驚いたような顔を見せた。あたしはその当事者だけに驚きこそしたが冷静を装った。 「何やったんだよあの馬鹿たち」
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