第三章、悦びの歌

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「とにかく、合唱コンクールが終われば済む問題でしょ? それまでちょっと大変かも知れないけど頑張って」 「違うんですよ。まだあるんですよ…… 学園祭とか」 「え、他の行事まで強制させるわけ?」 「はい、学園祭が終わればクラス文集を作るために皆で残ってやるそうです」 「そんなの従う必要ないじゃない。あなたは生活がかかっているんだからクラス行事よりもバイトを優先すべきじゃない」 「それが出来ていれば苦労は無いです」 一郎はブランコから立ち上がった。そしてあたしの方を向いて一礼をした。 「すいません、こんな滅入るような話を聞かせてしまって」 「いや、いいのよ。聞くだけで何も出来なくてごめんね」 あたしなら何かが出来そうだけど如何せん情報が足りない。その北諏訪って娘をぶっちめても終わる問題でも無いだろうし…… 一郎は公園から去ろうとした。あたしは手に持っていたたこ焼きの事を思い出して彼を引き止めた。 「このたこ焼き、持っていきなさい。今日たこはちのおっさんが作りすぎたとかで皆に配っていたのよ。帰ってチンして食べなさい」 「え、そんな、田中さんが貰ったものなのに」 「いいから遠慮しないで。妹さんだって喜ぶわよ」 「そうですか…… それじゃあ」 一郎はたこ焼きをぶら下げて走って行った。普段ならいい事をしたなあと気分が良くなるところだが今回はそんな気にはなれなかった。
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