第三章 粟立つ砂

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 その日から一週間後、合格通知がきた。思いのほか簡単に再就職先が決まり驚いてもいた。さらに、その一週間後に出社した。  今回採用されたのは5人ということだった。他社での編集経験のある2名が編集部に、その他の3人が営業部への配属となった。会社の組織は、その編集部と営業部の他、書店管理部、総務部、さらには全くの別事業の健康食品の通販事業部があった。なぜ、この会社に健康食品の通販事業部があるのかと蒼汰は疑問に思ったが、その理由は後々知ることとなる。  しかし、蒼汰が入社した浅川書房は、いわゆるブラック企業だった。それに気づいたのは、一か月後あたりからだったが、その時にはすでに会社の見えない圧力の中に閉じ込められていて、辞めるにやめられない状況に陥っていたのだった。  入社した当日の朝礼で、社長を始め各部長から精神論を叩きこまれた。やる気、根性こそが仕事の成果を決める。わが社を支えているのは社長であり、その絶対的存在の社長に奉仕するのが社員の努めであると。社長が面接の時に見せていた穏やかで柔和な顔は人を欺くためのものだったと知る。 蒼汰には当初信じれない考え方であったが、批判などできようがはずもなかったし、毎日毎日聞かされているうちに、そうかもと思ってしまってもいた。それに初日から始まった長時間労働が蒼汰の思考力を奪っていた。もちろん、残業代など支払われない。この長時間労働の先導役が健康食品の通販事業の部長を務める永山真美枝だった。  たとえ、蒼汰自身の仕事が早く終わったとしても、通販事業部の仕事の手伝いをさせられる。社長がいなくとも、永山が一声発すると、みんなが従うのだ。なんで、永山がこれほどまでに影響力があるのかと思っていたら、社長の愛人であると先輩社員から聞かされ納得した。だから、誰も永山の言葉には逆らえないのだ。  
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