第三章 粟立つ砂

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 毎日、寝るためだけに家に帰る。気がつくと、朝を迎え、遅刻せずに出社することだけを意識していた。遅刻すると、怒鳴られることはもちろん、罰金を言い渡される。しかも、罰金額は部長や社長のその時の機嫌で跳ね上がったりするのだ。 そして、あっという間に一か月が過ぎ、各人の成績結果が出た。残念ながら、新人営業部員の中で蒼汰の成績は最下位だった。もともと生真面目な蒼汰のような人間は、きちんとした社員教育を受ければ、それに沿った努力をして相応の成績は残せたはずだ。しかし、会社は中途採用者には一切の教育を行わず、現場にいきなり放り出したのだ。しかも、どうやっても達成不可能な高いノルマが課されていた。そんな中でも、蒼汰は蒼汰なりに精一杯の努力をした。しかし、社員の中でもっとも要領の悪い蒼汰はみんなの予想のごとく最下位になった。  すべての『結果』は、やる気や根性で決まるという価値観の部長や社長からすれば、蒼汰はやる気も根性も最下位と判断された。翌月初めの朝礼の際に、みんなの前で社長は蒼汰のことを名指しで非難した。『お前にはやる気のかけらも見受けられない。あほか、ボケ。うちにはそんな人間はいらないんだ。もう一度根性を叩き直して死ぬ気でやれ』  2か月目に入ると、蒼汰に対する異常ともいえる部長や社長によるパワハラ、いじめが始まった。最初は成績があがらないことに対してのものだった。  営業から戻り部長に報告をするが、その日も成果がないことがわかると、 「お前は会社を食い物にする給料泥棒だ」 「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」 「車のガソリン代がもったいない」  
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