第三章 粟立つ砂

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 その場にいるみんなに聞こえるように大きな声で言う。恥ずかしさと悔しさで顔が熱くなる。しかし、元来生真面目な蒼汰は、自分の成績があがらないせいだと自分を責めじっと我慢する。 「すみません。頑張ります」 「頑張ります? 毎日同じこと言ってるんじゃねーよ。ええー、どうするつもりなんだ」 「ですから、すみません。明日からまた頑張ります」  それを聞いた部長は呆れかえったという顔をして、手だけであっちへ行けという意思を示した。  ようやく自分の席に着いても、同僚たちはみんな知らないふりをしている。蒼汰に関わることを避けているのだ。  それでも、たまに早く帰ることができれば、酒を飲んで憂さ晴らしをするとか、友達と会って愚痴を言うことで気分転換をはかれたかもしれないが、相変わらず、通販事業部などの手伝いで長時間労働は続いていて、心も体もズタズタだった。  そんな中、部長や社長のパワハラは次第に、蒼汰の人間性そのものを否定するものへと発展していた。 「今までよく生きてこられたな」 「お前、対人恐怖症じゃねーか」  など。  ある日のこと。部長に手招きされ、席まで行くと。 「なんだ、その目つきは?」  と言われた。その日は風邪をひいていて体調が悪かっただけなのでそう言ったら、 「風邪のせいだと? お前は今日に限らずいつも目つきが悪いんだよ。前から思ってたんだけど、お前って頭悪いんじゃねーのか」  すると、これを聞いていた、隣の通販事業部の部長の永山がにやけた顔で追い討ちをかけた。 「確か、中井君って〇大を優秀な成績で卒業したんじゃなくて」 「ああ、そうなんですか。恐れ入りましたね。はっはっはっ」  明らかにおちょくっていた。なまじ蒼汰が有名私大の卒業生だったことが気に食わないのであろう。学歴だけで言えば、蒼汰はどの部長よりも名の知れた大学を卒業していたのだ。  
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