第四章 既読無視

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「あんたさ、辰夫にチクっただろう」  いきなり本題に入る。 「何のこと?」 「私が既読無視しているっていうことを、だよ」 「ああ」  やっぱり、そうであった。 「ふざけんなよ」  景子は、それだけ言って、電話を切った。  捜査の中でわかったことは、集団リンチを行うことになったドライブについて、4人は一度もリアルで会って相談をしていない。SNSだけで話し合っている。しかも、誰も景子を殺そうなどとも言っていない。生意気だから、お灸をすえてやろうという程度の話になっていた。だから、首謀者がいないのである。  ところが、実際に景子と相対し、景子から強い反発があったため、結果的に集団リンチとなった。  捜査を担当した刑事の一人の中丸には、同じ年頃の娘がいる。なので、思うところも多い。この子たちがお互いに作ってきた関係は、あまりに希薄で、しかもコミニュケ-ションの主な手段がSNSなので、リアル(現実世界)での真剣な人間関係が作れていないのはないか。本当に4人は殺す気まではなかったのかもしれないが、でも実際に瀕死状態とはいえまだ生きていた景子を谷底に落として逃げている。つまり、景子の本当の「死」を見ていない。景子の「死」も4人にとっては仮想上のままなのではないか。リアルの世界で逮捕された4人の頭の中には、今何があるのだろうか。中丸にはわからない。 たかだか「既読無視」がなぜ人を殺すことにまで発展してしまうのか。「既読無視」なんて、実際に会ってトコトン話し合えば解決できることではないか。中丸にはそう思えるのであるが…。  
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