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遠野と最寄駅で待ち合わせし、本社まで徒歩で向かう。途中、遠野から話があったのは、会長兼社長の山田という人物は、超ワンマンで、外部の人間にも平気で口さがない言葉を言うけれども気にするなということだった。誠のこれまでの経験でも、中小・中堅企業ではよくあることで慣れているので大丈夫と答えておいた。ただ、ワンマンということは、その社長がOKを出せば即決だから、話は早いとも言われた。それは、誠にとっても有り難いことである。
本社はメイン道路から少し入ったところにあった。5階建ての自社ビルは、結構古いビルではあったが、落ち着いた感じであった。先方の指定した時間の5分前に着き、1階の受付で遠野が名前を告げると、2階の奥の応接室に通された。
しかし、社長は一向に現れなかった。しかも、遅れている理由を知らせにくる社員はいない。誠は、内心どういう会社かと怒りを覚えていた。遠野も苛立っている様子で、何回も総務のところへ行っているが、ただ社長がまだ来ていないというだけで何もわからなかった。
結局、社長が現れたのは、指定の時間から50分を過ぎていた。現れた社長は、遅れたことを謝るでもなく、遅れた理由を説明することもなかった。遠野から誠の会社の事業案内を見せるよう促され、誠は慌てて資料を社長の手元へ差し出す。社長はそれをじっと見ていたが、開口一番こう言った。
「ここに、売上高が書いてないけど、君のとこの年商はいくらなの」
確かに、年商は書いていない。それは「会社案内」のほうに書いてあるからだ。そのことを説明するのも面倒なので、口頭で答える。
「年商ですか、大体、2,000万円です」
「あっ、そう。2,000万ね-、うちに比べるとゴミみたいなもんだね」
その瞬間、誠は全身の血が頭に上るのを感じた。確かに、年商300億円超の会社から見れば、2,000万はごく小さい金額かもしれないが、「ゴミ」呼ばわりされる覚えはない。
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