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他人から見れば、その程度のことでと思われかもしれない。誠自身これまでにもいろいろなことを言われた経験を持つが耐えられた。しかし、今回の「ゴミ」発言は、誠にとっては、深く傷ついたのである。小さいながらも、自分の会社に誇りを持っていた。誠実に仕事をしてきた。それを全否定されたと感じた。さらに言えば、自分のことだけでなく、妻も、従業員も否定された。だから許せなかったのだ。横に座っていた遠野の手が、誠の膝に軽く触れた。我慢しろという合図であることはわかった。誠は、歯を食いしばりぐっと我慢した。何も答えないことで堪えた。当の社長は、こちらの気持ちなど意に介していないようで、さらに話を続けた。
「それで、お宅のノベルティって、どんなものがあるの?」
事前に遠野から社長に資料が渡っていると聞いていたのだが、見ていないようなので、改めて商品パンフレットを渡す。すると、社長は軽く目を通し
「ふ~ん、こんなものしかないの。まるでガラクタだね。うちのお客様は目が肥えているから、これじゃ話にならないね。遠野先生、悪いけど、使えるものはないよ」
誠のほうは一切見ず、遠野のほうだけに目を向けて言う。遠野は困ったような顔を見せるも
「そうですか」
そう言うしかないのだろうが、誠はそんな遠野にも納得できない。ただ、誠はもう商談などどうでもよくなっていて、早くこの場を立ち去りたいということだけを考えていた。
「じゃあ、私はこの後会議があるので」
社長はそう言うと、さっさと応接室を出て行った。社長が応接室に入ってから出ていくまで、10分位しかたっていなかった。
その日、誠はどうやって自分の会社まで戻ったか、よく覚えていない。隣で、遠野がしきりに詫びていた記憶はあるのだが、そんなことはどうでもよく、誠は社長に対する怒りの気持ちで頭がいっぱいだった。これまで生きて来て「人を殺したい」と思ったのは初めてであった。
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